Landscape Design for Peace

空間について考える

【資格】自然再生士特別認定講習会 -2日目-【ランドスケープ】

前回の記事の続きです。

ns-story-design.hatenablog.com

自然再生士特別認定講習会2日目の講義を、自分が気になった部分に絞って簡単にまとめていきます。

 

 2日目 第1講義 「自然再生技術講座②」9:30~11:30

テーマ「自然再生の施工・管理について」

講師 日置 佳之 氏 鳥取大学 教授

一日目に続いて日置教授の講義です。前回の講義の続きから、先生が実際に行った自然再生の実務の事例を写真をふんだんに使ってお話してくださいました。

津黒高原湿原

岡山県真庭市にある湿原。面積約0.49ha。ハンノキが多数生育し、北縁と南縁に2本の水路がある。ここが自然再生実施地域

湿原は希少動植物のホットスポットとなっているが、湿原が消滅の危機にある。原因の一つに里山の伝統的な自然利用の影響下で成立してきた湿原が、だんだんと人の手が入らなくなってきたことがあげられる

岡山県の湿地面積は同県の0.002%の面積にもかかわらず、同県のレッドデータブックの希少湿生植物の約27%、希少湿性動物の約43%をカバーしているとのことで、生物多様性を持続していくために貴重な場所であるといえます。

 湿原環境の3要素

①安定した高い地下水位

②豊富な日射

③貧栄養な涵養水

自然再生を行う大きな流れとしては、上記の条件を満たしていくことになっていきます。

低茎湿性草本群落の再生

調査の結果から、かつて成立していたを再生させていくことを目標とする

目標達成のための戦略

①貧栄養化のため植物遺体・水田土壌の除去。水路の水かけ流し

②既存の根茎除去・高茎湿性草本の駆除

③日射量改善のためハンノキの伐採

④かつての植物種再生のため埋土種子発芽促進

 とても戦略的です。ブログではお伝えしきれませんが、スライドで見せていただいた調査をまとめた図には、細かな植生の分布や水脈、過去の植生の様子等説得力のある資料で目標を確定し、手法を提案されています。

結果として、水を導きハンノキを伐採して日射量の増えたところには狙い通り湿原が再生しておりました。

なにより重要だと感じたのが、ただ施工して終わらせるのではなく、その後も年に何度か現場に訪れて手入れを続けられているところです。現地の過去の歴史からわかるように、放っておくとまた同じように植物が密生し日射が遮られ湿原ではなくなってしまいます。2012年に始まったこのプロジェクトは、現在も変わらず関わり続けていらっしゃるとのことで、その姿勢はとても大切で、見習わなきゃいけないなあと思いました。

 2日目 第2講義 「生き物講座②」12:30~14:10

テーマ「鳥類の生態と生育地の再生技術」

講師 葉山 嘉一 氏 元日本大学 准教授

第2講義では、これまでと打って変わって鳥類の話になります。

最初に鳥類がどのような生態をしているのか基礎知識をお話してくださいました。

鳥類の生態を把握するための重要な視点

動く存在である

①環境条件に対応して移動する

②日常的な活動で移動する

③季節的な変化により渡りをする

④個体数の増加で分散する

⑤種間関係の相互作用で移動する

→よってライフサイクルに対応して生息環境を把握する必要がある

植物とは「動く」という部分で大きな差異があります。鳥が動くことを利用して種子を運ばせ生息域を広げたりしています。

最後に、上記の生態的特徴を踏まえた上で、鳥類に主眼をおいた自然再生を行う上で重要なことを以下にまとめてくださいました。

生息地の再生を検討する場合の視点

①本来の生息地の立地特性を把握する

②立地特性により支えられる鳥相の理想像(潜在的鳥相)を検討する

潜在的鳥相の主要な鳥種に関して、生態特性から見た生息地機能を検討する

④生息地機能の過不足を整理し、過不足への対応内容を検討する

⑤生息地の再生プロセスではモニタリングデータに基づいて生息種の構成を把握し、生息地再生の具体的内容について軌道修正する

この話も、1日目の日置教授のプロジェクトの進め方プロセスと同様の流れですね。技術的に確立された手法は強いです。目的と対象を明確にし、それに向かって調査・検討を進めて形に落とし込んでいき、経過観察して修正箇所を洗い出して改善していくという流れ。

社会でよく使われるPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)をより特定分野に対して調整し細分化したような手法のように思います。

 2日目 第3講義 「生き物講座③」14:20~16:00

テーマ「昆虫の生態と生育地の再生技術」

講師 竹内 将俊 東京農業大学 教授

自然再生士2日間を通して最後の講義になります。植物と密接な関係にある昆虫についての概論及び再生技術への展開についてです。

昆虫の繁栄した理由

①翅の獲得

②小さい体

③資源の分割

④丈夫な外骨格

⑤高い適応能力

⑥変態と休眠

⑦短い世代間隔

昆虫は名前がついているだけでおよそ90万種存在しており、現在発見されている生物の約半分を占めているそうです。そしてその昆虫群集は植物群集に影響を受けます。植物の中でも特定の場所にのみ出現する種と多様な環境に出現する種がおり、狭い空間であっても植生空間の内容や配置によって多様性が向上します。

Diamondの6との原則

①広いほど良い

②分割しない方が良い

③分離しない方が良い

④洗浄より等間隔の方が良い

⑤緑道でつないだ方が良い

⑥円形に近い方が良い

生物多様性の話の中で必ずと言っていい程話にあがる緑地の原則です。緑地の大きさ・形・質・コリドーとネットワークを適切にデザインするのが多様性を確保するのによいと言われています。

生育環境アップに向けて

樹林地の自然再生では、下草刈りや伐採によって種類数が増加する。しかし、放置された成熟林という特殊条件によって出現する種も存在する。それゆえに、画一的な伐採・更新が昆虫にとって多様性に結びつかない可能性がある。

何を目的として自然再生を行うかによって行う施策も異なってきます。一般的には生物多様性を確保するためには人の手を入れて管理、いわゆる里山のような使い方をするのが効果的と言われていますが、特定種の再生を目的としたときに、全く違う手段を用いることが必要になる場合があります。

 登録申請方法についての説明・小試験 16:10~16:55

すべての講義を終えて手続きの説明がはじまりました。

その後今回の講義のまとめとして小試験を行いました。

内容については触れませんが、長時間の講義を2日続けて拝聴した後の試験で、かなりへとへとになって受けました笑

この場では自然再生士の登録が完了しません。

最初に渡された自然再生士登録申請書に必要事項を記入し、手続きに必要なお金を入金してその振込票を申請書に添付し緑化センター宛に送れば完了です。

だいたい10月頃に認定して頂けるようです。

 総まとめ

全体的にすごくためになる講義の連続でした。

最初の講義で全体像を捉えるような総論で自然再生士という言葉のフレームを捉え、各論で植物・鳥類・昆虫の生態や自然再生に必要な技術を教えて頂きました。

自然再生という切り口から見たときにやるべき手順は基本的に同じで、とにかく調査を念入りにし、過去の状況や似ている状況と現況を比較し環境が劣化している原因をつきとめ、目標を設定しそれを達成するための計画を立て施工する。できれば全体を施工する前に修復可能な、もしくはダメージを最小限にするような範囲で試してみて、よければ全体施工に進めていく。その後も定期的なモニタリングを行って軌道修正が必要な事があればまた計画を立て対応していく。自然が相手のことなので、できるだけ柔軟な対応をすることと、根気強くその場に付き合っていくことがとても大事!!

 おまけ 代々木公園散策

国立オリンピック記念青少年総合センターは代々木公園に隣接するように建っております。

講義終わりに代々木公園によって癒やされてきました笑

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代々木公園 撮影:著者

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まちのこども園 代々木公園 撮影:著者

代々木公園にくるのが久しぶりだったので、キレイな建築が新しくできていて驚きました。設計はブルースタジオ。2017年に竣工とのこと。

参考:原宿村の原風景。丘の上の小さな家、大屋根の農家「まちのこども園 代々木公園」 | リフォーム・リノベーション実例集 | ブルースタジオ:blue studio × リノベーション

調べていてより驚いたのが、この建築が保育園・こども園だったことです。

代々木公園の中に保育園!!

すごい!

やっぱり街歩きは大事ですね。

新しい発見がそこかしこに広がっています。

【資格】自然再生士特別認定講習会 -1日目-【ランドスケープ】

7/2(火)と7/3(水)の二日間、国立オリンピック記念青少年総合センターにて自然再生士の特別認定講習会を受けてきました。

みっちり終日拝聴した講義の内容を、1日目と2日目に分けて備忘録としてまとめたいと思います!

 

 自然再生士の概要

 自然再生士は、一般社団法人日本緑化センターが平成22年度より創設した資格制度となります。

人と自然が共生する持続可能な社会の構築と、その根源である生物多様性保全を推進するため、自然再生に係る理念の啓発とその技術の普及を目的として、新たに「自然再生士(商標登録済)」の資格制度を創設し、平成22年度より実施しています。

出典:自然再生士制度/(一財)日本緑化センター

資格制度が発足してからまだ10年経っておりませんが、ちらほらと名刺交換した方にこの資格をお持ちの方がいてずっと気になっておりました。

ランドスケープデザインの重要な社会貢献の側面である、将来世代が生きていくために必要な地球環境や自然を保全していく持続可能な社会の構築と、その持続可能性を実現するために必要な生物多様性保全について専門的な知識を持った人に与えられる資格となっております。

植物をはじめとする自然を主要な素材として空間をデザインするランドスケープならではの視点になりますね。もちろん建築の設計においても様々な環境配慮した考え方や方法はあるかと思いますが、ランドスケープはよりダイレクトに外部空間に良くも悪くも影響を与える力を持っているので、大きな視野を持ってデザインしていく必要があります。

この自然再生士の資格を持っていることにより、そういった考えを持ってデザインしていますよ、という一つの表明になるかと思います。

日本緑化センターさんはランドスケープアーキテクトならいつかは手にしたい「樹木医」の資格制度も担ってますね。

 受験資格

受験資格は以下の通りです。

自然再生士資格試験

(1)受験資格

満23歳以上(受験年度の4月1日時点)の方で、自然再生に係る以下の実務経験年数を有する方が受験できます。

 

大学卒 3年以上
短期大学卒 5年以上
高校卒 7年以上
自然再生士補 1年以上

 

  • 自然再生に係る実務経験には、社会人になってからのボランティア活動や、調査・研究、人材育成 (環境教育等)も含みます。
  • 在学期間中(大学院含む)に行われた活動や研究は実務経験に含みません。
  • 自然再生セミナーを修了し自然再生士補の認定を受けた方で、社会人となって1年以上の方については、自然再生士補の認定を受ける以前の実務経験も含みます。
  • 認定校制度により自然再生士補の認定を受けた方で、卒業後社会人となって1年以上の実務経験を言います。なお、前年度の10月期に補資格認定を受けた方もその年度の4月にさかのぼり、1年間の実務経験として認められます。
  • 出典:自然再生士資格制度/(一財)日本緑化センター

私は上記の大学卒3年以上を満たしているので受験資格があったのですが、今回は一級造園施工管理技士とRLA(登録ランドスケープアーキテクト)をすでに取得していましたので特別認定講習を受け申請することで資格取得する方法を選びました。

  • 下記に示す資格を有する方が「自然再生士特別認定講習会」を受講し、小試験(確認試験)を受け、登録申請書を提出することで「自然再生士」として認定されます。 →下表(1)

 

  • 資格をお持ちでない方でも受講できます。「自然再生士補」として認定されます。 →下表(2)
    ※「自然再生セミナー」を兼ねて開催します

 

 2017年度に対象となる資格を拡充しました

申込者区分 取得できる資格
(1)有資格者
 ①技術士※1、②公園管理運営士③森林インストラクター④RCCM※2

 ※1,2:①技術士と④RCCMにおいて対象となる部門・選択科目、専門技術部門を設定
技術士 部門 選択科目
建設部門 「都市及び地方計画」、「河川」、「砂防及び海岸・海洋」、「建設環境」
環境部門 環境保全計画」、「自然環境保全」、「環境影響評価」
森林部門 「森林土木」、「森林環境」
④RCCM 専門技術部門
「造園」、「都市計画および地方計画」、「建設環境」

その他:1級造園施工管理技士、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)、樹木医
自然再生士
(2)上記資格をお持ちでない方 自然再生士補
  • 資格の取得は、講習会の全課程(確認試験を含む)を受講後、登録料の振り込みと申請書の提出が必要です。

出典:自然再生士資格制度/(一財)日本緑化センター

 特別認定講習会

 私は東京会場での講習会に参加しました。ちなみにもう一つの大阪会場は一週間後に行われる予定です。

会場は国立オリンピック記念青少年総合センター

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国立オリンピック記念青少年総合センター 撮影:著者

設計者は株式会社坂倉建築研究所。色使いや形がかなり特徴的です。1995年に竣工し、翌年BCS賞を受賞しております。

参考:BCS賞受賞作品 | 日本建設業連合会

会場は席の余裕がないくらい人がおり、アナウンスでは130名程の方が受講しているとのことでした。年齢層は30~40台位の方がボリュームゾーンで、女性の方は3割位だったでしょうか。

会場に入ると資料一式をスタッフの方から手渡されます。講義に関するものはすべてその資料の中に入っていますので、基本的には筆記用具と講習会申込みの際にメールで受け取った受講証を印刷して持参するだけで大丈夫です。

朝9:30に受講説明があり、9:40から講義がはじまりました。

以下に、講義の重要な部分だけをピックアップしていきます。

 1日目 第1講義 「自然再生の基本構成」 9:40~10:10

テーマ「自然再生の基本事項と基本構成(進め方)について」

講師:山田 和司 氏 一般社団法人日本緑化センター 常務理事

 最初の講義では自然再生の背景と基本事項を網羅的にカバーするような内容でした。

緑化することの目的

① 衣・食・住に関わる植物の生産

② 防風・砂防・水源涵養・土砂流失防止等、土地の保全

③ 人の周辺環境を美的及び快適の観点から修景

④ 自然環境の復元や再生等自然地の生態系保全

と定義されており、自分自身こういう風に緑化の価値を分類して認識することもなかったので、頭の中が整理されました。

 ①は第一次産業としての緑化、②は土木工事的緑化、③がいわゆるデザインの分野に関わる内容と捉えることができます。そして④が今回の自然再生士の目的となっている自然環境や生態系保全としての緑化となっております。

個人的にはランドスケープデザインが上記①~④すべてに関わっていくようになっていければいいなーと思っています。

自然再生における生物多様性の原則

①風土性の原則

②多様性の原則

③変異性の原則

と定義しています。

①はその場所特有の生態系の重要性、②は多様な種からなる相互依存関係の重要性、③は動的な変化や適応的な進化を続けるために必要な変異性が保たれた生態系の再生の重要性を説いています。要約するとその場所固有に存在する相互に関係し合う多様な種が環境の変化に適応していくために必要な変化を続けられる環境が重要とのことです。

 1日目 第2講義 「総論」10:10~12:10

テーマ「自然再生の理念と方法」

講師:進士 五十八 氏 福井県立大学 学長

恥ずかしながら進士先生の講義を聞くのは初めてでした。先生は東京農業大学の学長、名誉教授というイメージが強かったのですが、2016年より現職の福井県立大学学長を務められていらっしゃるとのことです。日本の造園業界の第一人者、礎を築いた方の一人で、今回講習会を申し込んだ時から先生のお話を楽しみにしておりました。

 自然共生社会の実現への4P1D

Philosophy(理念)

Policy(施策)

Plan(計画)

Program(手順・運動)

Design(形・意匠)

上記の順番にプロジェクトを進めていくのが大切で、いきなり形からはいってしまったら危険。それぞれの場所にふさわしい空間のあり方があるので、形から入るとその場にふさわしくない振る舞いをしてしまい、本末転倒になってしまう可能性がある。

すごく大事な指摘です。第1講義でも話に出てきた風土性に繋がっていきます。

デザインを主戦場にしている身としては、手を動かして形から創造し、上位レイヤーに立ち戻って、そこからまた形に落とし込んでいくような手順もいいかなーと思いますが、大事なのは4P1Dがストーリーとして矛盾なく論理的に説明可能で、その上で人の心を動かせるような力を持っていることだと思います。

4つの多様性

①地球自然の持続性→生物多様性

②地球社会の持続性→生活多様性

③グローバル経済の安定と持続性→経済多様性

④地球風景の持続性→景観多様性

①は多様性と言われたときに一番に思い浮かびやすいフレーズですね。多様な土地利用や地形や地質、動植物等の多層性と多孔質性が大事とのことです。

②はライフスタイルの多様性。色々な生き方がある中で、造園といった切り口から見てみたときに、最近では生活の拠点を都市と田舎の2つ持つ二居住生活が話題になっています。住むまで行かなくても、グリーンツーリズムや都市にあえてちょっとした農園スペースをつくって貸し出していたり、人と緑の関わり方も多様化してきています。

③は上記のような生活スタイルや、観光・里山ビジネスといった美しい風土を残しながら経済活動としても成立させていく必要があるとの指摘です。言葉として美しい自然を守る、というのはとても響きがいいですが、それが持続的に次世代にも繋がっていくためには経済的な成功が重要になってきます。少し似た例え話として、「空腹な人には釣った魚をあげるのではなく、魚の釣り方を教えることが重要」というのがあります。もちろん緊急事態には積極的に魚をあげるべきですが、その場だけの解決ではなく持続的に問題を解消することが重要という視点ですね。

そして上記多様性があることによって生まれてくるのが④の景観の多様性です。固有の生物が生きその場での生活が経済的に成立して文化となり、それが風景としてたち現れてきます。

先生のお話はすべてが有機的に繋がっていき、新しい知見と自分がランドスケープアーキテクトとして社会に対して担っている役割の大きさと誇らしさを改めて認識させてもらい、とても勇気の出る講義となりました。

 1日目 第3講義 「自然再生技術講座①」13:10~15:10

テーマ「自然再生の計画・設計について」

講師:日置 佳之 鳥取大学 教授

第3講義からは各論のお話になっていきます。この講義では自然再生の計画・設計についてお話してくれました。

自然再生の広域計画

①どこでどんな自然再生を行うべきかを検討するのが広域計画

②自然環境のグランドデザインには、現存する自然環境の保全計画と回復すべき自然環境に関する計画、すなわち自然再生計画が含まれる

③広域計画には自然環境の質・量・配置すなわちパッチやコリドーの質・量・配置を考える景観生態学的計画が必須

先生が例としてオランダの国土計画と首都圏自然再生計画(国土交通省国土計画局)を出しわかりやすく解説してくださいました。個人的にはこれ程大きなスケールで緑地のあり方や自然環境の繋がりを考えたことがなかったので新しい視点です。

自然再生事業を行う場所を選定するのには二通りあり、一つは生態系のつながりの中で重要なポイントとなる場所を特定して事業地とするやり方で、もう一つが国有地や公有地、企業所有地でのCSR、もしくは遊休地となっている場所を事業地とするやり方。土地所有の観点から後者の方が現実的で実地例も多くあるそうです。

自然再生事業の手順

特に重要なのが調査結果の解析で、最低一年は観察して生態系の劣化原因を特定する

かなり根気のいる作業です。自然の時間スケールで考えれば確かに一年四季による生態系の変化を観察してから目標を設定していかないと見当違いの施策をしてしまうかもしれません。

再生目標としてのモデル設定と環境ポテンシャルの評価を合わせて決定する必要がある

モデル設定にも、歴史的に空中写真や絵図面等を頼りに過去その場にあった自然をモデルにする「歴史的アプローチ」と、その空間に環境や似ている場所をリサーチし参考にする「空間的アプローチ」の二通りがあり、時には併用しながら状況に応じて使い分ける

デザインする上でその土地の歴史や植生、土の状態等を調査しどうあるべきか形を探っていきますので、自然再生の手順に親近感があります。これもその土地固有であることがキーワードになってきます。

環境ポテンシャルは生物的指標と物理化学的指標を過去の状況や似ている環境の状況と比較し劣化しているかどうかを確認する

上記のような調査の上で、劣化している原因を探り、例えば植生が密生しすぎて林床に光が届かず不健康な状態になっていると判断できれば伐採して光を届くようにする等対応して自然再生していくとのことです。こちらの講義、実践編が2日目の第1講義に繋がっていきます。

 1日目 第4講義 「いきもの講座①」15:20~17:00

テーマ「植物の生態と生育地の再生技術」

講師:麻生 嘉 一般社団法人日本緑化センター 主任研究員

1日目最後の講義は植物の生態と生育地の再生技術とのことで、大学生時代の講義を思い出すような懐かしい話が聞けました。

私自身植物の生態の理解があまり深くないので改めてこのような機会を頂けて大変勉強になりました。

自然再生のポイント

 手探りで解決していくことが多いので、取り返しの聞く範囲で再生方法を試してみるのが重要

管理をするのに、画一的な手法に固執して作業を行うのではなく、自然環境の中で状況に応じて監理の方法も順応していくように柔らかな発想が必要となり、順応していくためには細かな観察・モニタリングを丁寧に記録し研究するのが大切

一度失うと元通りにはならないため、引き返しの利く範囲で手法を試し最もよい結果が出た方法を展開していくことで最小のダメージで最大の利益がでるように計画していくことが重要

 1日目まとめ

とにかく濃い講義の目白押しでした。

第1、第2講義と自然再生士が持つべき知識の総論を学び、後半で各論の深い部分を第一線で活躍されている先生方の生の声を聴くという贅沢な内容で、とても学びが多いです。

2日目も各論の深い部分をギュッとまとめてくださった内容を聴けるとのことで、とても楽しみです。

ただ、やはり丸一日講義というのは頭の体力的に結構キツイものがありました笑

それだけ集中力を擁する専門性の高い内容だったということでもありますが、もっと体力つけないといけないな、と思いました。

2日目に続きます。

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ランドスケープデザインってなに?

このブログのタイトルの一部であるランドスケープデザインという言葉について、まずは私の考えを書いていこうと思います。

 言葉の定義

英語ではブログタイトル通りlandscape designと書きます。

landscapeは日本語に訳すと景観風景地形地勢という意味を持ち、design設計計画構造などといった意味を持ちます。

2つの単語を単純に合わせると、風景設計といったところでしょうか。

大まかな言葉のイメージとしてはこんな感じでよいかと思います。

 また、実際にランドスケープデザインを仕事としている人のことをランドスケープアーキテクトと呼びます。アーキテクトは英語でarchitectとなり、日本語訳すると建築家設計者となります。ランドスケープアーキテクト風景設計者ですね。

ランドスケープアーキテクトという言葉は1859年にマンハッタンにつくられたセントラルパークを設計したフレデリック・ロー・オルムステッドが最初に公式に名乗った人物だと言われております。

 

参考文献

「テキスト ランドスケープデザインの歴史」武田史朗、山崎亮、長濱伸貴編著 学芸出版社2010

 実務としてのランドスケープアーキテクト

実際の職能としてのランドスケープアーキテクトという言葉は、とても幅広いです。

戸建住宅の外構やお庭などの小規模スケールから、公園や広場・教育施設の園庭などの中規模スケール、都市計画などの大規模スケールまで、ランドスケープアーキテクトはその空間の大小にとらわれずデザインします。

お庭や植栽に特化して関わっている人を造園家と呼んだり、住宅外構スケールのデザインを専門とする人をエクステリアデザイナーと呼んだりもしますが、今の時代それらの言葉の示す範囲は曖昧になってきているように感じます。

そもそもランドスケープアーキテクトの日本語訳として造園家と呼んでたりもしますし、日本の歴史から見たらむしろ造園家という肩書の方が馴染み深いものがあるようにも感じますが、上記のような幅の広い職能を指すときはランドスケープアーキテクトと呼称する方がしっくりくるように思います。

結局のところ、どう呼ばれようとも(自称しようとも)やっていることの内容はオーバーラップしあって溶け合っている状態なのだから、そこにこだわらなくてもいいかなと思っています。

私自身、5平米に満たないお庭のデザインから8,000平米の広場のデザインまで経験しておりますが、それらの異なるスケールを自在に横断して設計業務ができるのがランドスケープアーキテクトの面白いところであり、魅力の一つだと思います。

 ランドスケープデザインとは

 はじめの議題に戻りますが、上記のように色んなスケールで空間のデザインすることを職能としていることから、一言で説明するのは難しいです。

 大雑把に言ってしまうと、「見上げたときに空が広がっている場所」でのあらゆる空間デザインを要素として持っている職能かと思います。

じゃあ屋内の緑化デザインはどうなんだとか、地下の空間デザインはどうなんだとかそれもまたツッコミどころがでてきてしまいますが、 基本的な職能の範囲としてはこんなな感じでふんわりと捉えております。