Landscape Design for Peace

空間について考える

【資格】自然再生士特別認定講習会 -1日目-【ランドスケープ】

7/2(火)と7/3(水)の二日間、国立オリンピック記念青少年総合センターにて自然再生士の特別認定講習会を受けてきました。

みっちり終日拝聴した講義の内容を、1日目と2日目に分けて備忘録としてまとめたいと思います!

 

 自然再生士の概要

 自然再生士は、一般社団法人日本緑化センターが平成22年度より創設した資格制度となります。

人と自然が共生する持続可能な社会の構築と、その根源である生物多様性保全を推進するため、自然再生に係る理念の啓発とその技術の普及を目的として、新たに「自然再生士(商標登録済)」の資格制度を創設し、平成22年度より実施しています。

出典:自然再生士制度/(一財)日本緑化センター

資格制度が発足してからまだ10年経っておりませんが、ちらほらと名刺交換した方にこの資格をお持ちの方がいてずっと気になっておりました。

ランドスケープデザインの重要な社会貢献の側面である、将来世代が生きていくために必要な地球環境や自然を保全していく持続可能な社会の構築と、その持続可能性を実現するために必要な生物多様性保全について専門的な知識を持った人に与えられる資格となっております。

植物をはじめとする自然を主要な素材として空間をデザインするランドスケープならではの視点になりますね。もちろん建築の設計においても様々な環境配慮した考え方や方法はあるかと思いますが、ランドスケープはよりダイレクトに外部空間に良くも悪くも影響を与える力を持っているので、大きな視野を持ってデザインしていく必要があります。

この自然再生士の資格を持っていることにより、そういった考えを持ってデザインしていますよ、という一つの表明になるかと思います。

日本緑化センターさんはランドスケープアーキテクトならいつかは手にしたい「樹木医」の資格制度も担ってますね。

 受験資格

受験資格は以下の通りです。

自然再生士資格試験

(1)受験資格

満23歳以上(受験年度の4月1日時点)の方で、自然再生に係る以下の実務経験年数を有する方が受験できます。

 

大学卒 3年以上
短期大学卒 5年以上
高校卒 7年以上
自然再生士補 1年以上

 

  • 自然再生に係る実務経験には、社会人になってからのボランティア活動や、調査・研究、人材育成 (環境教育等)も含みます。
  • 在学期間中(大学院含む)に行われた活動や研究は実務経験に含みません。
  • 自然再生セミナーを修了し自然再生士補の認定を受けた方で、社会人となって1年以上の方については、自然再生士補の認定を受ける以前の実務経験も含みます。
  • 認定校制度により自然再生士補の認定を受けた方で、卒業後社会人となって1年以上の実務経験を言います。なお、前年度の10月期に補資格認定を受けた方もその年度の4月にさかのぼり、1年間の実務経験として認められます。
  • 出典:自然再生士資格制度/(一財)日本緑化センター

私は上記の大学卒3年以上を満たしているので受験資格があったのですが、今回は一級造園施工管理技士とRLA(登録ランドスケープアーキテクト)をすでに取得していましたので特別認定講習を受け申請することで資格取得する方法を選びました。

  • 下記に示す資格を有する方が「自然再生士特別認定講習会」を受講し、小試験(確認試験)を受け、登録申請書を提出することで「自然再生士」として認定されます。 →下表(1)

 

  • 資格をお持ちでない方でも受講できます。「自然再生士補」として認定されます。 →下表(2)
    ※「自然再生セミナー」を兼ねて開催します

 

 2017年度に対象となる資格を拡充しました

申込者区分 取得できる資格
(1)有資格者
 ①技術士※1、②公園管理運営士③森林インストラクター④RCCM※2

 ※1,2:①技術士と④RCCMにおいて対象となる部門・選択科目、専門技術部門を設定
技術士 部門 選択科目
建設部門 「都市及び地方計画」、「河川」、「砂防及び海岸・海洋」、「建設環境」
環境部門 環境保全計画」、「自然環境保全」、「環境影響評価」
森林部門 「森林土木」、「森林環境」
④RCCM 専門技術部門
「造園」、「都市計画および地方計画」、「建設環境」

その他:1級造園施工管理技士、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)、樹木医
自然再生士
(2)上記資格をお持ちでない方 自然再生士補
  • 資格の取得は、講習会の全課程(確認試験を含む)を受講後、登録料の振り込みと申請書の提出が必要です。

出典:自然再生士資格制度/(一財)日本緑化センター

 特別認定講習会

 私は東京会場での講習会に参加しました。ちなみにもう一つの大阪会場は一週間後に行われる予定です。

会場は国立オリンピック記念青少年総合センター

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国立オリンピック記念青少年総合センター 撮影:著者

設計者は株式会社坂倉建築研究所。色使いや形がかなり特徴的です。1995年に竣工し、翌年BCS賞を受賞しております。

参考:BCS賞受賞作品 | 日本建設業連合会

会場は席の余裕がないくらい人がおり、アナウンスでは130名程の方が受講しているとのことでした。年齢層は30~40台位の方がボリュームゾーンで、女性の方は3割位だったでしょうか。

会場に入ると資料一式をスタッフの方から手渡されます。講義に関するものはすべてその資料の中に入っていますので、基本的には筆記用具と講習会申込みの際にメールで受け取った受講証を印刷して持参するだけで大丈夫です。

朝9:30に受講説明があり、9:40から講義がはじまりました。

以下に、講義の重要な部分だけをピックアップしていきます。

 1日目 第1講義 「自然再生の基本構成」 9:40~10:10

テーマ「自然再生の基本事項と基本構成(進め方)について」

講師:山田 和司 氏 一般社団法人日本緑化センター 常務理事

 最初の講義では自然再生の背景と基本事項を網羅的にカバーするような内容でした。

緑化することの目的

① 衣・食・住に関わる植物の生産

② 防風・砂防・水源涵養・土砂流失防止等、土地の保全

③ 人の周辺環境を美的及び快適の観点から修景

④ 自然環境の復元や再生等自然地の生態系保全

と定義されており、自分自身こういう風に緑化の価値を分類して認識することもなかったので、頭の中が整理されました。

 ①は第一次産業としての緑化、②は土木工事的緑化、③がいわゆるデザインの分野に関わる内容と捉えることができます。そして④が今回の自然再生士の目的となっている自然環境や生態系保全としての緑化となっております。

個人的にはランドスケープデザインが上記①~④すべてに関わっていくようになっていければいいなーと思っています。

自然再生における生物多様性の原則

①風土性の原則

②多様性の原則

③変異性の原則

と定義しています。

①はその場所特有の生態系の重要性、②は多様な種からなる相互依存関係の重要性、③は動的な変化や適応的な進化を続けるために必要な変異性が保たれた生態系の再生の重要性を説いています。要約するとその場所固有に存在する相互に関係し合う多様な種が環境の変化に適応していくために必要な変化を続けられる環境が重要とのことです。

 1日目 第2講義 「総論」10:10~12:10

テーマ「自然再生の理念と方法」

講師:進士 五十八 氏 福井県立大学 学長

恥ずかしながら進士先生の講義を聞くのは初めてでした。先生は東京農業大学の学長、名誉教授というイメージが強かったのですが、2016年より現職の福井県立大学学長を務められていらっしゃるとのことです。日本の造園業界の第一人者、礎を築いた方の一人で、今回講習会を申し込んだ時から先生のお話を楽しみにしておりました。

 自然共生社会の実現への4P1D

Philosophy(理念)

Policy(施策)

Plan(計画)

Program(手順・運動)

Design(形・意匠)

上記の順番にプロジェクトを進めていくのが大切で、いきなり形からはいってしまったら危険。それぞれの場所にふさわしい空間のあり方があるので、形から入るとその場にふさわしくない振る舞いをしてしまい、本末転倒になってしまう可能性がある。

すごく大事な指摘です。第1講義でも話に出てきた風土性に繋がっていきます。

デザインを主戦場にしている身としては、手を動かして形から創造し、上位レイヤーに立ち戻って、そこからまた形に落とし込んでいくような手順もいいかなーと思いますが、大事なのは4P1Dがストーリーとして矛盾なく論理的に説明可能で、その上で人の心を動かせるような力を持っていることだと思います。

4つの多様性

①地球自然の持続性→生物多様性

②地球社会の持続性→生活多様性

③グローバル経済の安定と持続性→経済多様性

④地球風景の持続性→景観多様性

①は多様性と言われたときに一番に思い浮かびやすいフレーズですね。多様な土地利用や地形や地質、動植物等の多層性と多孔質性が大事とのことです。

②はライフスタイルの多様性。色々な生き方がある中で、造園といった切り口から見てみたときに、最近では生活の拠点を都市と田舎の2つ持つ二居住生活が話題になっています。住むまで行かなくても、グリーンツーリズムや都市にあえてちょっとした農園スペースをつくって貸し出していたり、人と緑の関わり方も多様化してきています。

③は上記のような生活スタイルや、観光・里山ビジネスといった美しい風土を残しながら経済活動としても成立させていく必要があるとの指摘です。言葉として美しい自然を守る、というのはとても響きがいいですが、それが持続的に次世代にも繋がっていくためには経済的な成功が重要になってきます。少し似た例え話として、「空腹な人には釣った魚をあげるのではなく、魚の釣り方を教えることが重要」というのがあります。もちろん緊急事態には積極的に魚をあげるべきですが、その場だけの解決ではなく持続的に問題を解消することが重要という視点ですね。

そして上記多様性があることによって生まれてくるのが④の景観の多様性です。固有の生物が生きその場での生活が経済的に成立して文化となり、それが風景としてたち現れてきます。

先生のお話はすべてが有機的に繋がっていき、新しい知見と自分がランドスケープアーキテクトとして社会に対して担っている役割の大きさと誇らしさを改めて認識させてもらい、とても勇気の出る講義となりました。

 1日目 第3講義 「自然再生技術講座①」13:10~15:10

テーマ「自然再生の計画・設計について」

講師:日置 佳之 鳥取大学 教授

第3講義からは各論のお話になっていきます。この講義では自然再生の計画・設計についてお話してくれました。

自然再生の広域計画

①どこでどんな自然再生を行うべきかを検討するのが広域計画

②自然環境のグランドデザインには、現存する自然環境の保全計画と回復すべき自然環境に関する計画、すなわち自然再生計画が含まれる

③広域計画には自然環境の質・量・配置すなわちパッチやコリドーの質・量・配置を考える景観生態学的計画が必須

先生が例としてオランダの国土計画と首都圏自然再生計画(国土交通省国土計画局)を出しわかりやすく解説してくださいました。個人的にはこれ程大きなスケールで緑地のあり方や自然環境の繋がりを考えたことがなかったので新しい視点です。

自然再生事業を行う場所を選定するのには二通りあり、一つは生態系のつながりの中で重要なポイントとなる場所を特定して事業地とするやり方で、もう一つが国有地や公有地、企業所有地でのCSR、もしくは遊休地となっている場所を事業地とするやり方。土地所有の観点から後者の方が現実的で実地例も多くあるそうです。

自然再生事業の手順

特に重要なのが調査結果の解析で、最低一年は観察して生態系の劣化原因を特定する

かなり根気のいる作業です。自然の時間スケールで考えれば確かに一年四季による生態系の変化を観察してから目標を設定していかないと見当違いの施策をしてしまうかもしれません。

再生目標としてのモデル設定と環境ポテンシャルの評価を合わせて決定する必要がある

モデル設定にも、歴史的に空中写真や絵図面等を頼りに過去その場にあった自然をモデルにする「歴史的アプローチ」と、その空間に環境や似ている場所をリサーチし参考にする「空間的アプローチ」の二通りがあり、時には併用しながら状況に応じて使い分ける

デザインする上でその土地の歴史や植生、土の状態等を調査しどうあるべきか形を探っていきますので、自然再生の手順に親近感があります。これもその土地固有であることがキーワードになってきます。

環境ポテンシャルは生物的指標と物理化学的指標を過去の状況や似ている環境の状況と比較し劣化しているかどうかを確認する

上記のような調査の上で、劣化している原因を探り、例えば植生が密生しすぎて林床に光が届かず不健康な状態になっていると判断できれば伐採して光を届くようにする等対応して自然再生していくとのことです。こちらの講義、実践編が2日目の第1講義に繋がっていきます。

 1日目 第4講義 「いきもの講座①」15:20~17:00

テーマ「植物の生態と生育地の再生技術」

講師:麻生 嘉 一般社団法人日本緑化センター 主任研究員

1日目最後の講義は植物の生態と生育地の再生技術とのことで、大学生時代の講義を思い出すような懐かしい話が聞けました。

私自身植物の生態の理解があまり深くないので改めてこのような機会を頂けて大変勉強になりました。

自然再生のポイント

 手探りで解決していくことが多いので、取り返しの聞く範囲で再生方法を試してみるのが重要

管理をするのに、画一的な手法に固執して作業を行うのではなく、自然環境の中で状況に応じて監理の方法も順応していくように柔らかな発想が必要となり、順応していくためには細かな観察・モニタリングを丁寧に記録し研究するのが大切

一度失うと元通りにはならないため、引き返しの利く範囲で手法を試し最もよい結果が出た方法を展開していくことで最小のダメージで最大の利益がでるように計画していくことが重要

 1日目まとめ

とにかく濃い講義の目白押しでした。

第1、第2講義と自然再生士が持つべき知識の総論を学び、後半で各論の深い部分を第一線で活躍されている先生方の生の声を聴くという贅沢な内容で、とても学びが多いです。

2日目も各論の深い部分をギュッとまとめてくださった内容を聴けるとのことで、とても楽しみです。

ただ、やはり丸一日講義というのは頭の体力的に結構キツイものがありました笑

それだけ集中力を擁する専門性の高い内容だったということでもありますが、もっと体力つけないといけないな、と思いました。

2日目に続きます。

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